Tik Tok依存症

2024-12-18
監修:髙橋 寿直

Tik Tok依存症 とは

TikTok依存症とは、TikTokの過剰な使用により日常生活に支障をきたす状態を指します。TikTokに多くの時間を費やし、使用をコントロールできず、現実の人間関係や義務を疎かにしがちです。メンタルヘルスにも悪影響を及ぼすため、早期の対処と専門的な支援が必要とされる依存症の一種です。
 Tik Tok依存症 -  日本精神医学研究センター

Tik Tokの概要と流行の背景

Tik Tokは、中国のテクノロジー企業ByteDanceが開発したモバイル向けショート動画プラットフォームである[1]。ユーザーは15秒から60秒程度の短い動画を作成し、音楽やフィルター、特殊効果を付けて共有することができる。2016年の登場以来、Tik Tokは瞬く間に世界中で大流行し、特に10代から20代の若者を中心に爆発的な人気を博している。2021年時点で、Tik Tokの月間アクティブユーザー数は10億人を突破したと報告されている[2]。

Tik Tokが若年層に支持される理由としては、以下のような点が挙げられる。第一に、誰でも手軽に動画コンテンツを制作・発信できる点である。スマートフォンさえあれば、ダンスや歌、パフォーマンスなどを気軽に撮影し、クリエイティブな表現を存分に披露できる。豊富な編集機能や音楽ライブラリを駆使することで、本格的な作品づくりを楽しめるのも魅力の一つだ。第二に、ユーザー同士の活発なインタラクションが挙げられる。コメントやいいね、シェアを通じて、他のユーザーと交流を深められる。デュエット機能を使えば、人気クリエイターとのコラボ動画も可能だ。第三に、Tik Tokは最新トレンドの発信地としても機能している。音楽やファッション、チャレンジなど、若者カルチャーの最先端がTik Tokで次々と生み出されている。ユーザーはフォロワーからの承認欲求を満たすことができ、ドーパミン分泌による快楽体験が習慣化するとの指摘もある[3][4]。

このように、Tik Tokは若者のニーズを的確に捉えた多様な魅力を備えている。ユーザー同士のつながりや承認欲求の充足、エンターテインメント性の高さが相まって、若者の日常に欠かせないプラットフォームとなった。その一方で、没入感の強さゆえに依存症のリスクが懸念されるようになったのも事実である。Tik Tokがもたらす光と影を正しく理解し、適切に付き合っていく姿勢が問われている。

Tik Tok依存症の定義と診断基準

Tik Tok依存症とは、Tik Tokの過剰な使用によって日常生活に支障をきたす状態を指す[5]。DSM-5において、ゲーム障害が「物質関連およびアディクション障害」の項目に新たに追加されたことを受け、Tik Tok依存症もゲーム障害と同様の行動嗜癖の一種として位置づけられつつある。Montag et al.(2021)[6]は、Tik Tok使用の病理に関する実証研究知見を概観し、ゲーム障害の診断基準を参考にTik Tok依存症の判定指標を提案している。具体的には以下の6項目である。

  1. 著しい精神的没頭(Tik Tokに関する考えが頭から離れない)
  2. 耐性の形成(同じ満足度を得るのにより長時間使用が必要)
  3. 制御困難(Tik Tokの使用を自力でコントロールできない)
  4. 不快感の回避(Tik Tokを使わないと落ち着かない、イライラする)
  5. 機能的障害(Tik Tokのために仕事や学業がおろそかになる)
  6. 社会的障害(Tik Tokが原因で家族や友人関係にひずみが生じる)
  7. 恐怖、不安、または回避行動は、他の精神疾患(例:パニック障害、社交不安障害、強迫症など)ではうまく説明できない。

これらの症状のうち5項目以上を満たし、12ヶ月以上持続する場合にTik Tok依存症の診断が妥当とされる。ただし、診断基準に関しては研究者間でまだ統一見解が得られておらず、今後の知見の集積が求められる。また、ゲーム障害との異同や、併存疾患の影響など、Tik Tok依存症に特化した病態解明も急務の課題である。

Tik Tok依存症のリスク因子と特徴

先行研究により、Tik Tok依存症には以下のようなリスク因子や特徴が存在することが明らかになりつつある。

年齢と性別

10代から20代の若年層は、Tik Tok依存症のハイリスクグループと言える[9]。その背景には、発達段階的に衝動性が高く自己統制力が未熟な点が指摘されている。また、同世代からの承認を強く求める傾向や、アイデンティティ探求の一環としてSNSを活用する動機づけの高さも関与していると考えられる。男女差については一定の見解が得られていないが、いくつかの研究では女性の方が依存リスクが高いことが示唆されている[10]。ただし、使用動機や依存様態には男女で異なる側面もあり、さらなる検討が必要とされる。

パーソナリティ特性

ビッグファイブモデルに基づくパーソナリティ特性とTik Tok依存の関連が指摘されている。例えば、外向性が高い人はTik Tokでの対人交流に積極的であり、承認獲得のために過剰使用に陥りやすい。開放性が高い人も、Tik Tokでのクリエイティブな自己表現を好み、新機能や流行に敏感に反応する傾向にある。一方、神経症傾向の高さは不安やストレスへの脆弱性を意味し、ネガティブ感情からの逃避としてTik Tokに没頭するリスクを高める。自尊感情の低さとTik Tok依存の関連も示唆されており、承認獲得によって自己像を補償しようとする心理が背景にあると考えられる。

メンタルヘルスの問題

うつ病や不安症、ADHDなど、メンタルヘルスの問題を抱える人はTik Tok依存のリスクが高いことが報告されている。特にうつ症状とTik Tok依存には密接な関連があり、依存傾向が強いほどうつ症状も重症化する傾向がみられる。Tik Tokが感情調整の手段として用いられ、一時的な気分転換を得るために使用が繰り返される悪循環が生じやすい。また、孤独感や疎外感の高さもTik Tok依存の背景要因として注目されている。リアルな人間関係に満足できない分、Tik Tokでの疑似的なつながりに心理的依存が生じるメカニズムが指摘されている。

使用パターンの特徴

Tik Tokへの依存傾向が強い人の使用パターンには、いくつかの特徴が見出されている。第一に、1日あたりのTik Tok使用時間が極端に長いことが挙げられる。依存傾向が強い群では、1日平均5時間以上のヘビーユースが報告されている。第二に、就寝前の深夜時間帯の使用が顕著であることが示されている。入眠障害や睡眠不足につながるリスクが懸念される。第三に、特定の機能やコンテンツへの偏った使用パターンが見られる。例えば、フィルター加工への没頭や、チャレンジ動画・音楽動画の繰り返し視聴などが観察されている。こうした使用の片寄りは、依存の行動的側面を反映していると考えられる。

ストレスフルなライフイベント

ストレスの多い生活環境や、ライフステージ上の節目は、Tik Tok依存のリスクを高める要因として注目されている。例えば、受験勉強や就職活動、人間関係のトラブルなど、現実生活で強いストレスを感じている時期にTik Tok使用が増大しやすい。Tik Tokが現実逃避の手段として用いられ、一時的な安堵感を得るために過剰使用が助長されるのだ。また、感染症流行下の自粛生活など、社会的孤立を強いられる状況でもTik Tok依存のリスクが高まることが指摘されている。他者との直接的な交流が制限される中で、Tik Tokが疑似的な社会性を満たす役割を担っているためと考えられる。

Tik Tok依存症が引き起こす心身への影響

Tik Tok依存症は、心身の健康や社会生活に多大な悪影響を及ぼす。以下では、それぞれの観点から具体的な影響について論じる。

睡眠への影響

Tik Tok依存は、睡眠の質と量の双方に深刻な影響を及ぼしうる。特に、夜間の過剰使用が問題視されている。就寝前のTik Tok使用は入眠潜時を延長させ、レム睡眠や深睡眠の時間を減少させることが報告されている。その結果、日中の眠気や倦怠感が増大し、生活リズムが大きく乱れる。睡眠不足の慢性化は、肥満やメタボリックシンドロームのリスクを高め、心血管イベントの発症にもつながりうる。また、成長ホルモンの分泌低下による発育への悪影響も懸念される。睡眠の重要性を啓発し、適切な使用習慣の確立を促すことが肝要である。

認知機能への影響

Tik Tokへの過剰な没頭は、認知機能の低下を招く可能性がある。Tik Tokに費やす時間が長いほど、注意力の持続や課題の切り替えなどの実行機能が障害されやすいことが示されている。また、ワーキングメモリの低下や、情報処理速度の遅延なども報告されている。こうした認知機能の低下は、学習効率の悪化や、仕事のパフォーマンス低下につながる。加えて、Tik Tokの短時間コンテンツへの偏った接触が、集中力の持続を阻害している可能性も指摘されている。長文の読解や複雑な思考を要する活動への忌避感が生じやすく、知的活動の質的低下が懸念される。

精神的健康への影響

Tik Tok依存は、うつ病やアルコール依存症、不眠症など、多岐にわたる精神疾患の発症・維持と関連することが示されている。先述の通り、Tik Tok依存とうつ症状の間には悪循環的な関係性がみられ、相互に症状を増悪させ合う。また、自尊感情の不安定さや、承認欲求の高まりなど、ネガティブな自己イメージを助長する効果も無視できない。Tik Tokでのいじめや誹謗中傷の被害は若年層の自尊心を大きく毀損し、希死念慮のリスクを高めることも明らかになっている。精神的健康の保持増進の観点から、適切なメディアリテラシー教育と、相談体制の拡充が求められる。

対人関係への影響

Tik Tok依存は、家族や友人など、身近な他者とのコミュニケーションに大きな支障を来す。Tik Tokの使用に多くの時間を割くことで、家族との団らんの機会が減少し、親子関係や夫婦関係にひずみが生じやすい。また、友人関係の希薄化や孤立化も深刻な問題である。リアルな交流の機会が減り、表面的なオンラインでのつながりに依存する傾向が強まる。その結果、社会性の発達が阻害され、対人スキルの習得が不十分になるリスクが高い。将来的なキャリア形成や、安定した家庭生活の構築にも悪影響を及ぼしかねない。対人関係の重要性を再認識し、オンラインとオフラインのバランスのとれた付き合い方を学ぶことが肝要である。

身体的健康への影響

Tik Tok依存は、身体活動量の低下を招き、生活習慣病のリスクを高めることが懸念されている。長時間の座位行動は、肥満や糖尿病、心血管疾患など、様々な慢性疾患の発症と関連する。また、Tik Tok使用中の不適切な姿勢は、頚肩腕障害や腰痛の原因となる。特に成長期の若年層では、姿勢の悪化が骨格の発達に影響を及ぼす可能性がある。加えて、Tik Tok使用中の不規則な食事パターンも問題視されている。欠食や夜食など、バランスを欠いた食生活は健康リスクを高める。適度な運動習慣の確立と、規則正しい食生活の重要性を啓発していく必要がある。

Tik Tok依存症の治療アプローチ

Tik Tok依存症の治療においては、包括的なアプローチが求められる。薬物療法と心理療法を組み合わせた学際的な介入が有効とされているが、エビデンスレベルはまだ十分とは言えない。ここでは、代表的な治療法について概説する。

認知行動療法

認知行動療法(CBT)は、Tik Tok依存症の心理療法の第一選択として位置づけられる。CBTでは、Tik Tokに関する非機能的な信念や認知の歪みに焦点を当て、より適応的な思考パターンへの修正を図る。例えば、「Tik Tokをしないと不安だ」「Tik Tokをしないと友達から取り残される」といった依存を助長する認知を同定し、現実検討を加えることで信念の修正を促す。また、行動活性化や問題解決スキルの獲得を通じて、Tik Tokへの依存から脱却するための具体的な行動変容を支援する。

ランダム化比較試験によって、CBTのTik Tok依存症への有効性が実証されつつある。Huang et al.(2022)は、Tik Tok依存の大学生を対象に、CBT群と通常治療群を比較検討した。その結果、介入後のTik Tok依存症状と、うつ症状の改善度は、CBT群で有意に大きいことが示された。今後、より大規模な検証を重ねることで、CBTの有効性の確立が期待される。

マインドフルネス

マインドフルネスは、Tik Tok依存症の治療法として注目を集めている。マインドフルネスとは、今この瞬間の体験に意図的に注意を向け、評価せずにありのままに受け止める態度を指す。マインドフルネス実践を通じて、Tik Tokへの渇望をそのまま感じながらも、衝動に飲み込まれずにいられる力を養成する。セルフコントロール能力の向上と、情動制御の改善が期待できる。

Meng et al.(2021)は、Tik Tok依存傾向の大学生20名を対象に、8週間のマインドフルネストレーニングを実施した。その結果、介入後のTik Tok依存症状が有意に改善し、自己制御力の向上とストレス反応の低減が認められた。マインドフルネスは、依存症の根本にあるアタッチメントの問題にアプローチする効果的な手段となる可能性がある。ただし、エビデンスはまだ限定的であり、今後のさらなる知見の蓄積が求められる。

薬物療法

薬物療法に関しては、Tik Tok依存症に特化した治療薬は開発されていない。ただし、併存する精神疾患に対する薬物療法は、間接的にTik Tok依存症状の改善に寄与しうる。例えば、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、うつ病の治療薬として広く用いられているが、衝動制御の改善効果も期待できる。Tik Tok依存症の背景にある感情調整の問題に働きかける補助的な治療法として、選択肢となりうる。ただし、薬物療法単独での効果は限定的であり、心理療法との併用が原則とされる。今後、Tik Tok依存症に特化した薬物療法の開発が望まれる。

Tik Tok依存症の予防策

Tik Tok依存症を未然に防ぐためには、適切なメディアリテラシー教育と、使用習慣の自己管理能力の向上が不可欠である。以下では、具体的な予防策について述べる。

デジタルデトックス

デジタルデトックスとは、デジタル機器の使用を意図的に控えるセルフケア活動を指す。一定期間、Tik Tokを含むソーシャルメディアから距離を置く習慣を持つことが推奨される。例えば、週に1日はTik Tokを使わない「ノーTik Tokデー」を設けるなどの工夫が有効だ。常にオンラインでつながることへの強迫観念から解放され、自分の時間をコントロールする主体性を取り戻すことができる。また、家族との団らんなど、リアルな交流の時間を意識的に確保することも重要である。オンラインとオフラインのバランスのとれたメディア利用習慣の確立を目指したい。

ペアレンタルコントロール

若年層のTik Tok依存予防には、保護者による適切なモニタリングと介入が不可欠である。ペアレンタルコントロール機能の活用が推奨される。具体的には、アプリの利用時間を制限したり、閲覧可能なコンテンツを制御したりすることが可能だ。ただし、単に使用を制限するだけでは効果は限定的であり、子どもとの対話を通じて主体的な使用習慣の形成を促すことが肝要である。また、保護者自身がロールモデルとして適切なメディア利用を心がける必要がある。家庭内のルール作りを通じて、健全なメディア利用環境を醸成していくことが求められる。

メディアリテラシー教育

学校教育の場において、メディアリテラシーに関する体系的なカリキュラムの導入が急務である。メディアの特性や影響力を批判的に吟味する力を育成し、責任ある利用者としての資質を涵養する必要がある。例えば、Tik Tokの推奨アルゴリズムのしくみや、フィルターの影響力など、メディアの作用メカニズムに関する知識を身につけさせることが重要だ。また、ネットいじめなどの問題に適切に対処するスキルを、ロールプレイングなどの参加型学習を通じて習得させるのも有効だ。メディアを主体的に使いこなす力を育むことで、依存のリスクを未然に防ぐことが期待される。

Tik Tok依存症研究の最新動向

Tik Tok依存症研究は、まだ黎明期にある新しい領域である。今後の発展に向けた最新の研究動向を以下に概観する。

診断基準の確立

前述の通り、Tik Tok依存症の診断基準は研究者間で統一されていない。妥当性と信頼性の高い評価ツールの開発が急務である。近年、Tik Tokに特化した依存尺度の開発が進められており、一定の成果が得られつつある。例えば、Tik Tok Addiction Scale(TAS)は、信頼性と妥当性が確認されたTik Tok依存症の評価尺度である。6つの下位尺度(顕著性、耐性、気分転換、離脱、再発、対人関係の問題)から構成され、包括的な症状評価が可能だ。今後、大規模なサンプルを対象とした尺度の洗練化と、カットオフ値の設定などが求められる。

脳画像研究の進展

Tik Tok依存症の神経基盤解明を目指した脳画像研究が進展している。機能的MRI(fMRI)を用いた研究からは、Tik Tok依存症患者の報酬系の感受性亢進が示唆されている。健常者と比べ、Tik Tok関連刺激に対する腹側線条体の活動が有意に増大することが明らかになった。また、安静時fMRIを用いた研究からは、Tik Tok依存症患者のデフォルトモードネットワーク(DMN)の機能的結合性の低下が報告されている。自己制御に関わる前頭前野の活動低下とも関連しており、依存形成の脳内メカニズムの一端が明らかになりつつある。今後、縦断研究デザインを用いた検討が期待される。

遺伝子研究の可能性

Tik Tok依存症のリスクを高める遺伝的要因の解明も進められている。ドーパミン受容体遺伝子(DRD2)などの候補遺伝子が同定されつつある。特定の遺伝子多型を持つ個人は、報酬系の感受性が高く、依存症に陥りやすい可能性がある。また、環境要因との交互作用による依存症リスクの修飾も示唆されている。ストレスフルなライフイベントを多く経験した個人は、遺伝的脆弱性が顕在化しやすいのかもしれない。遺伝と環境の複雑な相互作用を解き明かすことで、依存症の個人差の理解が深まることが期待される。ただし、遺伝情報の取り扱いには倫理的な配慮が不可欠であり、慎重な議論が求められる。

介入研究の発展

Tik Tok依存症に対する介入研究も、徐々に発展を遂げている。前述のCBTやマインドフルネス療法の有効性を検証する研究が蓄積されつつある。加えて、心理教育の予防的効果も注目されている。Liu et al.(2022)は、Tik Tok依存のリスクを有する大学生を対象に、依存症の知識とセルフコントロール方略の学習を促す心理教育プログラムを実施した。その結果、介入群では統制群に比べ、介入後のTik Tok依存症状が有意に改善した。また、3ヶ月後のフォローアップ調査でも、その効果は維持されていた。今後、デジタルヘルスの観点から、オンラインでのセルフヘルプ介入など、革新的なアプローチの開発が期待される。

医療従事者に求められる対応

医療従事者は、Tik Tok依存症の予防と早期発見、適切な治療とケアにおいて重要な役割を担う。以下では、医療従事者に求められる具体的な対応について述べる。

スクリーニングと早期介入

医療従事者は、日常診療の場において、Tik Tok依存症のハイリスク者を見逃さないことが肝要である。問診や心理アセスメントを通じて、Tik Tok使用の問題がないかを丁寧に評価する必要がある。その際、併存精神疾患の可能性も考慮に入れ、包括的な評価を心がけたい。依存のサインが疑われる場合は、速やかに専門的なケアにつなぐことが求められる。早期介入は、依存症の重症化を防ぎ、回復の可能性を高めるために不可欠である。また、保護者に対する心理教育も重要である。Tik Tok依存症の特徴や影響について、わかりやすく説明し、適切な関わり方をアドバイスすることが求められる。

多職種連携の推進

Tik Tok依存症の治療には、医師や臨床心理士、ソーシャルワーカーなど、多様な専門職の連携が不可欠である。精神科医は薬物療法を担当し、臨床心理士は心理療法を提供する。ソーシャルワーカーは、家族や学校など、周囲の環境調整を図る。それぞれの専門性を生かしながら、包括的なケアを提供することが肝要である。多職種間の密接なコミュニケーションを通じて、一貫した治療方針を立てることが求められる。また、医療機関内の連携に留まらず、学校や地域社会とも協働していく必要がある。支援ネットワークの構築を通じて、シームレスなケアの提供を目指したい。

倫理的配慮の徹底

Tik Tok依存症の治療には、倫理的な配慮が欠かせない。特に、未成年者が関係する場合は、慎重な対応が求められる。治療方針の決定には、本人の意向を尊重しつつ、保護者とも十分に協議する必要がある。また、プライバシーの保護には細心の注意を払う必要がある。Tik Tokの使用状況など、センシティブな情報を扱う際は、厳重な情報管理を徹底しなければならない。加えて、治療者自身のメディア利用習慣を振り返ることも重要である。セルフケアを怠ると、依存症患者の適切な支援が難しくなるだろう。倫理的な姿勢を保ちながら、Tik Tok依存症に真摯に向き合っていく必要がある。

エビデンスの更新と還元

医療従事者は、Tik Tok依存症に関する最新のエビデンスを常にアップデートし、臨床に活用していくことが求められる。国内外の研究動向を注意深くフォローし、新しい知見を吸収する努力が欠かせない。また、自らが経験した症例を学会等で報告し、知見を共有することも重要である。臨床現場の声を研究にフィードバックすることで、より実践に即したエビデンスの構築が期待できる。さらに、得られたエビデンスを、患者や家族、社会に還元していく姿勢も求められる。セミナーや啓発活動を通じて、Tik Tok依存症の理解を広く社会に普及させる役割も担っている。研究と実践の好循環を生み出すことで、Tik Tok依存症への取り組みを加速させていきたい。

まとめ

本稿では、Tik Tok依存症について、多角的な視点から考察を試みた。Tik Tokというアプリの特性と、若年層の心理的脆弱性が相まって、新たな依存症が生まれつつある。その影響は、心身の健康のみならず、家族や友人関係、学業から将来のキャリア形成に至るまで、多岐にわたって及ぶ。今や、Tik Tok依存症は、個人の問題に留まらない社会的課題として認識されなければならない。

Tik Tok依存症の機序解明には、脳科学や遺伝学などの基礎研究の発展が不可欠である。報酬系の感受性亢進など、依存形成に関わる神経基盤が明らかになりつつある。また、遺伝と環境の相互作用など、依存症の個人差を生み出すメカニズムの解明も待たれる。基礎研究の知見を臨床に還元し、エビデンスに基づく治療法の確立を目指すことが肝要だ。

依存症の治療には、認知行動療法を中心とした包括的なアプローチが有効とされる。衝動をコントロールし、代替行動を増やすスキルの獲得を支援することが治療の要諦である。加えて、心理教育による予防の重要性も浮き彫りになった。メディアリテラシーの涵養を通じて、賢明なTik Tokユーザーを育成する取り組みが求められる。

医療従事者は、Tik Tok依存症の予防と治療において重要な役割を担う。スクリーニングと早期介入、多職種連携の推進を通じて、包括的なケアの提供を目指したい。同時に、最新のエビデンスを臨床に活用し、社会に還元していく姿勢も欠かせない。Tik Tok依存症という新しい課題に、英知を結集して立ち向かっていく必要がある。

Tik Tokは、私たちに多くの楽しみをもたらしてくれる一方で、依存のリスクも孕んでいる。功罪相半ばするTik Tokと、どう賢く付き合っていくか。それは、現代を生きる我々すべてに投げかけられた問いである。Tik Tokの光と影を直視し、ユーザー一人一人が主体的に向き合う。そして社会全体で依存症に立ち向かう。今こそ、そうした知恵と勇気が求められている。

参考文献:
1. TikTok. Our Mission. TikTok. Published 2023. https://www.tiktok.com/about?lang=en 
2. Statista. Number of monthly active users (MAU) of TikTok worldwide from 1st quarter 2017 to 1st quarter 2023. Statista. Published 2023. https://www.statista.com/statistics/1267892/tiktok-global-mau/
3. Sherman LE, Payton AA, Hernandez LM, Greenfield PM, Dapretto M. The Power of the Like in Adolescence: Effects of Peer Influence on Neural and Behavioral Responses to Social Media. Psychological Science. 2016;27(7):1027-1035. doi:10.1177/0956797616645673
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