摂食障害とは

2024-12-08
監修:髙橋 寿直

摂食障害とは とは

 摂食障害とは -  日本精神医学研究センター

「摂食障害の理解から治療、日常生活のコツまで。この完全ガイドでは、疫学から再発予防、適切な食生活まで、必要な情報を網羅的に探求します。摂食障害に関するあらゆる疑問を解決しましょう。」

1. 摂食障害の基礎知識

摂食障害は食行動に関する深刻な精神的障害です。体型や体重に対する過度の関心と、摂食に関する異常な態度が特徴で、重篤な身体的、心理的問題を招き得ます。摂食障害は一般的には青少年期から大人初期にかけて発症し、特に女性に多いとされていますが、男性もまた摂食障害に苦しむことがあります。

1.1 摂食障害の定義

摂食障害とは、食べる行動、体型、体重に異様な注目を払い、その結果、身体的および精神的健康に支障を及ぼす一連の精神医学的疾患です。主に拒食症、過食症などが知られており、これらは国際的な疾病分類体系においても認識されている疾患です。

1.2 疫学頻度と性差について

日本国内において摂食障害の正確な発生率は明らかにされていませんが、若年女性に特に多く見られ、男性に比べ女性の患者数が多いとされています。近年では、男女共に発症する例が増加しており、男性の摂食障害への注目も高まっています。

2. 摂食障害の原因

摂食障害の原因は一つではなく、遺伝的要因、心理社会的要因、環境的要因などが複合的に絡み合っているとされています。心理社会的要因には、体型に対する社会的圧力や身近な人からの期待、それに対するストレスなどが含まれます。

2.1 生物学的要因

家族歴や遺伝子の影響、脳内の化学物質のバランスなどが生物学的要因として挙げられます。特定の遺伝的要素が摂食障害の発症リスクを高めるとの報告もあります。

2.2 心理社会的要因

社会的な美的基準や家族からの期待圧力、身近な人々との関係の問題など、多くの心理社会的要因が摂食障害の発症に影響を与えると考えられています。過度なダイエットや完璧主義も、摂食障害を引き起こす可能性があります。

3. 摂食障害の種類と症状

摂食障害は大きく拒食症、過食症に分けられ、それぞれに特有の症状や問題があります。拒食症では極端な体重減少が、過食症では不自制な食事摂取が見られます。

3.1 拒食症(アノレキシア・ネルボーサ)

過度に痩せこけることを恐れる拒食症は、体重減少や食事を極端に制限する行動に特徴づけられます。体重減少に強迫的な焦点を当てることで、重篤な健康問題を引き起こす可能性があります。

3.2 過食症(ブリミア・ネルボーサ)

過食症はコントロール不能な過食エピソードが特徴であり、その後、排出行動を伴います。肥満とは異なり、体型や体重に対する過度の恐れが苦悩を招き、心理的な問題が背後にあります。

3.3 摂食障害NOS

Not Otherwise Specified(特定せずの摂食障害)は、臨床的特徴が拒食症や過食症と完全に一致しない場合に用いられる診断です。症状が多様であり、一般化された診断基準に当てはまらないケースを含みます。

2. 摂食障害の原因

摂食障害を引き起こす原因は複雑で多岐にわたりますが、大きく分けて生物学的要因心理社会的要因環境的要因の三つに分類されることが一般的です。これらの要因が複合的に作用し、摂食障害を引き起こすと考えられています。

2.1 生物学的要因

生物学的要因としては、遺伝的な傾向が指摘されています。家族歴に摂食障害がある場合、そのリスクは高くなるという研究結果があります。また、脳内の特定の神経伝達物質やホルモンの不均衡が摂食行動に影響を及ぼす可能性があります。

2.2 心理社会的要因

心理社会的要因としては、対人関係の問題、家族構造、文化的・社会的圧力などがあります。とりわけ、体型や体重に対する過度な重視は、摂食障害を発症しやすくする要因とされています。また、過去のトラウマやストレスが原因で発症することもあります。

2.3 環境的要因

現代社会における環境的要因としては、メディアやSNSによる美の理想の強調、ダイエット文化の普及等が挙げられます。特に若い女性は外見に対する社会的なプレッシャーを強く受けやすく、摂食障害のリスクを高めるとされています。

2.4 その他の要因

さらに、個人の体質や性格、パーソナリティ特性が摂食障害の発生に関連することがあげられます。完璧主義や自己評価の低さ、抑うつ傾向なども、摂食障害のリスクを高める因子です。

2.5 原因の複合的な相互作用

これらの要因は単独で摂食障害を引き起こすわけではなく、多くの要因が複雑に絡み合うことで発症するとされています。そのため、治療にあたっても個々の患者に合わせた多面的なアプローチが必要とされています。

要因の種類具体的な要因
生物学的要因遺伝、脳内物質の不均衡
心理社会的要因対人関係の問題、社会とのズレ、ストレス
環境的要因メディア、SNS、ダイエット文化
性格特性完璧主義、自己評価の低さ、抑うつ傾向

3. 摂食障害の種類と症状

3.1 拒食症(アノレキシア・ネルボーサ)

拒食症は体重を極端に減少させる行為や体型に対する異常な恐怖、体重の増加を極端に恐れる心理状態が特徴です。通常、自己の体重や体型に対する認識が歪み、体重減少のための強迫的な食事制限や極度の運動を行います。

3.2 過食症(ブリミア・ネルボーサ)

過食症は制御不能な過食癖が見られ、摂取した食物に対する後悔や罪悪感から、自己誘発嘔吐、利尿剤や下剤の乱用、断食や過度な運動など、 体重増加を防ぐための補償行動を繰り返します。

3.3 摂食障害NOS(Not Otherwise Specified)

摂食障害NOSは、他の摂食障害に分類されず、特定されない症状の摂食障害を指します。拒食症や過食症と似た特徴を持ちながらも、 完全に診断基準に合致しない状態が含まれます。

各摂食障害共通の身体的および心理的症状

  • 体重の異常な増減
  • 食事に異常な集中や時間を費やす行動
  • 不規則な生理周期や生理不順
  • 栄養不良による疲労感や集中力の低下
  • 気分の波やうつ病的な状態
  • 社交的な場からの引きこもり
摂食障害の種類主な症状補償行動
拒食症極端な食事制限、体重の著しい減少、食べる行為に対する恐怖過度な運動、断食
過食症自制できない過食行為、食後の罪悪感や後悔自己誘発嘔吐、下剤や利尿剤の使用
摂食障害NOS拒食症や過食症の症状をいくつか含むが、完全な診断基準には合致しない症状に応じた補償行動が見られることがある

4. 女性と男性における摂食障害の違い

性別による摂食障害の差異は、疫学、発症年齢、社会的影響、症状の顕れ方など、様々な側面で確認されます。女性は社会による美の基準と密接なプレッシャーを感じやすい傾向があり、その結果、摂食障害が発症するリスクが高まるとされています。一方、男性においては、筋肉質な体型を理想とする傾向が影響しており、摂食障害の発症パターンが異なることが指摘されています。

摂食障害の特徴女性男性
疫学頻度拒食症や過食症が多く見られる過食症よりも過食障害が多いとされる
発症年齢10代後半から20代前半やや遅めの20代から30代
社会的影響美容雑誌やメディアの影響が大きいフィットネス雑誌や筋トレの影響が大きい
症状の顕れ方体重の過度な減少を目指す行動が顕著過度の筋肉増強を目指す行動が顕著

女性と男性の摂食障害における取り組み方の違いも注目されています。たとえば、女性ではカロリー制限や無理なダイエットが問題となる一方で、男性では不健康なサプリメントの過剰摂取や過激なボディビルディングへの傾倒が懸念されます。このように性別によって摂食障害へのアプローチを変える必要があるということを理解し、個々の状況に応じた治療計画が必要となります。

解決策には性別特有の生物学的、心理的な側面を考慮し、社会文化的な要因にも目を向けたサポートが推奨されます。女性に対するサポートでは、体型への過度な注目から解放するための自己肯定感の強化を目指す方策が重視されます。男性の場合は、体型や体力に関するステレオタイプを取り除き、健康的な体を目指すためのサポートが必要です。

5. 摂食障害の評価と診断

5.1 摂食障害の診断基準

摂食障害の正確な診断は、個別の症状や行動パターンに基づきます。米国精神医学会が発行している精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-5)では、摂食障害には複数のカテゴリーが存在し、それぞれ具体的な診断基準が示されています。これにより医療専門家は患者の行動、体重、食事摂取の歴史、および自己認識といった要素を評価します。

5.2 診断過程のステップ

摂食障害の診断過程には複数のステップが含まれます。初診での詳細な患者インタビューが基盤となり、追加の心理的評価や医学的試験が続きます。このプロセスは、患者さんの全体的な健康状態を理解し、他の医学的条件を除外するためにも重要です。

5.3 必要な医学的検査

摂食障害診断のための医学的検査には、血液検査、心電図、および骨密度測定などが含まれます。これらは患者さんの栄養状態や心血管系に対する影響を評価し、潜在的な合併症を早期に発見するために行われます。

重要な考慮事項

  • 包括的な医療アプローチの必要性
  • 診断基準に基づく評価の厳密さ
  • 他の精神疾患や身体疾患との鑑別

診断基準の例

摂食障害タイプ主な診断基準
拒食症意図的な体重減少、体重維持の失敗、異常な体型・体重への強迫観念
過食症定期的な過食エピソードとそれに伴う失制御感
摂食障害NOS特定の摂食障害に当てはまらないが、明らかな食行動問題が存在する

6. 摂食障害の治療方法

摂食障害の治療は多岐にわたり、個々の症状や原因に応じたアプローチが必要です。ここでは、主に採用されている治療法について具体的な内容をご説明します。

6.1 治療チームと治療計画

摂食障害の治療には一般的に多職種の専門家によるチームアプローチが用いられます。チームには医師、栄養士、心理療法士、精神科看護師などが含まれることが多いです。治療計画は患者様一人ひとりの症状、身体状況、心理状態に合わせてカスタマイズされます。

6.2 栄養療法

栄養療法では、栄養不足の状態の是正と健全な食事パターンの形成を目的としています。栄養士によって個々の栄養ニーズに応じた食事プランが立てられ、安全にリフィーディング(再栄養)を進めます。

6.3 心理療法

  • 認知行動療法(CBT): 摂食障害に関連する否定的な思考パターンと行動を識別し、変更していく手法です。
  • 家族療法: 家族が治療に参加し、家族間のコミュニケーションや関係性の改善を目指します。
  • 対人関係療法(IPT): 対人関係の問題が摂食障害の維持に影響している場合に有効です。

6.4 薬物療法

摂食障害の薬物療法には、抗うつ薬や抗不安薬などが用いられることがあります。医師の診断と監督のもと、症状を和らげたり精神状態を安定させたりすることを目的として処方されます。

7. 摂食障害の再発予防と対策

摂食障害の治療を成功させ、さらに重要なのはその回復を維持し再発を防ぐことです。再発予防には、多角的なアプローチが必要とされています。

7.1 再発予防のための戦略

再発を防ぐためには、治療中に学んだ健康的な食事習慣やストレス管理の技術を継続して活用することが重要です。また、定期的なカウンセリングを通じて感情やストレスに対処する方法を維持し、必要に応じて治療チームと相談しながら適応していくことも有効です。

  • 自己モニタリング:日記をつけて食事内容、気分、日々のできごとを記録し、問題が表れたときに早期に対処する。
  • ストレス対処法:瞑想、ヨガ、運動などを取り入れてストレスを管理する。
  • 定期的なフォローアップ:治療チームとの定期的な面談を通して進捗を監視し、追加サポートを受ける。
  • サポートグループ活用:同じ経験を持つ人々との情報交換や感情の共有により、困難に対処する。

7.2 日常生活での注意点

摂食障害の回復中や回復後も、日常生活の中で注意が必要な場面は多々あります。特にトリガーとなり得る状況や活動に対しては事前に計画を立て、必要であれば家族や友人に支援を求めましょう。

  • 食事計画の維持:回復初期に作成した食事計画を続ける。外食の際も事前にメニューを確認し、計画を立てる。
  • 適切なエクササイズ:過度な運動は避け、適度なエクササイズを行い身体と精神の健康を保持。
  • 社会活動への参加:友人や家族との活動を通して社会的サポートを維持する。
  • ネガティブな自己対話の克服:自身に対するネガティブな思い込みや自己対話を認識し、積極的に対処する。

摂食障害の治療と回復は一人ひとりに合わせた個別のプロセスであり、再発予防には個々の状況やニーズに合わせたアプローチが求められます。自己理解と自己管理が成功への鍵となり、専門家の支援を得ながら着実に前進していくことが大切です。

8. 摂食障害と食生活

8.1 摂取すべき栄養素

摂食障害を経験されている方々は、身体のバランスを整えるために必要な栄養素を適切に取り入れることが求められます。総合的な栄養素が豊富に含まれた食事の重要性を理解し、栄養学に基づいた食生活を心がけることが回復への一歩となります。特に重要なのは、次の栄養素です。

  • タンパク質: 筋肉や細胞の修復に必要
  • カルシウム: 骨を丈夫に保つために必須
  • 鉄分: 貧血の予防やエネルギー代謝に関わる
  • ビタミン類: 全身の機能を正常に保つために必要な補酵素
  • 食物繊維: 腸内環境の改善に役立つ
  • オメガ3脂肪酸: 脳の健康と機能の維持に重要

8.2 推奨される食物と食事のヒント

健康な食生活にはバランスの取れた食事が不可欠です。摂取すべき栄養素を含む、推奨される食品群には以下のようなものがあります。

  • 全粒穀物: 複合炭水化物を提供し、エネルギーを長時間にわたって供給
  • 緑黄色野菜や果物: ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富
  • 良質なタンパク質源: 植物性タンパク質の大豆製品や、動物性であれば肉、魚、卵など
  • 乳製品: カルシウムとビタミンDが豊富。乳糖不耐症の場合は、代替品を利用する
  • 不飽和脂肪酸が含まれるオイル: オリーブオイルやナッツ類などが良い選択

食事でのバランスは不可欠ですが、摂食障害の回復にあたっては、ストレスなく食事を楽しむことも同じく重要です。以下に、摂食障害のある方向けに食事のヒントをいくつか紹介します。

  • 食事記録をつけることで、自身の食生活を客観的に評価する
  • 食事は1日3食を心がけ、栄養バランスを考える
  • 無理のない範囲で新しい食品にチャレンジし、食の多様性を高める
  • 食事は楽しい社交の場と捉え、家族や友人と共に行う

8.3 栄養療法における具体的アプローチ

治療チームにおける栄養士や医師の指導のもとで、栄養療法が実施されます。患者さん一人ひとりの身体状況や摂食障害の状態に応じた食事計画が立てられ、安全かつ効果的に栄養摂取を行うことが可能となります。ここでは、一般的なアプローチについて触れますが、個々の状態に合わせた専門的なアドバイスを受けることが肝心です。

目的アプローチ具体的な食品例
エネルギー不足の補充高カロリー食品の選択ナッツ、アボカド、チーズ
栄養不足の解消栄養密度が高い食品の取り入れ鮭やレバー(鉄分・ビタミンB12)、ブロッコリーや花椰菜(ビタミンC)
消化機能のケア消化に優しい食品の選択やわらかく煮た野菜、白米、豆腐

栄養療法は、ただ単に栄養素を取り入れることに留まらず、摂食行動の正常化と食に対する健全な関係を築くことも目指しています。

9. サポートとリソース

摂食障害を抱えることは、個人だけでなく家族や周囲にも大きな影響を与えます。多面的な支援が必要とされる中で、家族や友人の理解とサポートが非常に重要です。ここでは、摂食障害を克服するための支援ネットワークや利用できるリソースについて詳細に解説します。

9.1 家族や友人へのアドバイス

摂食障害のある方への適切な接し方は、その回復を支える基盤となります。対話を開始する方法、共感を示しながらも健康的な境界を保つ方法、正しい情報の提供方法、緊急時の対処法など、具体的な支援の仕方について解説します。

9.2 支援団体と専門機関

摂食障害の治療と回復過程では、専門的なセラピストや医療機関、支援団体の助けが不可欠です。具体的なサービス内容、匿名で相談が可能なヘルプライン、患者と家族が参加できる自助グループなど、全国的に知られている団体やリソースを紹介します。

種類団体名提供サービス
患者支援日本摂食障害協会個別相談、セミナー、情報提供
家族支援摂食障害家族の会家族向けワークショップ、相互支援グループ
一般教育日本摂食障害情報センター啓発活動、資料配布、専門家向け研修

摂食障害に悩む人々に対する総合的なサポートが整っていることは、回復への歩みを力強く後押しします。適宜、地域の医療機関や専門のカウンセラーに相談し、必要に応じたサポートを受けることが大切です。

10. まとめ

本ガイドでは摂食障害の概要から治療、再発予防、適切な食生活に至るまでを網羅しました。